言語を学ぶ際、使用頻度の高い単語を覚えることは確かに効果的な勉強方法です。 しかし、どの高頻度語彙リストを用いたらもっとも効率よく勉強できるかということは決して単純な問題ではありません。
例えば、高頻度ランキングで言うと、新約聖書のトップ10名詞は次のものです。
新約聖書のトップ10名詞ランキング
- θεός, ὁ 神
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- κύριος, ὁ 主、主人
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- Χριστός, ὁ キリスト
- πατήρ, ὁ 父
- ἡμέρα, ἡ 昼、昼間、時期
- πνεῦμα, τό 風、息、霊
- υἱός, ὁ 息子
- ἀδελφός, ὁ 兄弟
しかし、四福音書になると、そのランキング順が変わるだけではなく、高頻度語彙のトップ10に入る語彙も少し違ってきます。
四福音書のトップ10名詞ランキング
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- θεός, ὁ 神
- πατήρ, ὁ 父
- υἱός, ὁ 息子
- κύριος, ὁ 主、主人
- μαθητής, ὁ 弟子
- ἡμέρα, ἡ 昼、昼間、時期
- οὐρανός, ὁ 天
- ὄχλος, ὁ 群衆
七つほどの語彙は両方のトップ10リストに載っていますが、Χριστός、πνεῦμα、ἀδελφός は四福音書のトップ10リストに含まれておらず、逆に、μαθητής、οὐρανός、ὄχλος は新約聖書全体のトップ10リストに含まれていません。
ということは、まずは福音書の原典を読んでみたいと思う方は、
- Χριστός, ὁ キリスト
- πνεῦμα, τό 風、息、霊
- ἀδελφός, ὁ 兄弟
より先に
- μαθητής, ὁ 弟子
- οὐρανός, ὁ 天
- ὄχλος, ὁ 群衆
を覚えた方が効果的であるかもしれません。
しかし、さらに言えば、四福音書のトップ10リストとそれぞれの福音書のトップ10リストはまた多少違ってきます。それぞれのトップ10名詞リストを比べてみましょう。
マタイによる福音書のトップ10名詞ランキング
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- υἱός, ὁ 息子
- οὐρανός, ὁ 天
- κύριος, ὁ 主、主人
- μαθητής, ὁ 弟子
- πατήρ, ὁ 父
- βασιλεία, ἡ
- θεός, ὁ 神
- ὄχλος, ὁ 群衆
マルコによる福音書のトップ10名詞ランキング
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- θεός, ὁ 神
- μαθητής, ὁ 弟子
- ὄχλος, ὁ 群衆
- υἱός, ὁ 息子
- ἡμέρα, ἡ 昼、昼間、時期
- Ἰωάννης, ὁ ヨハネ
- χείρ, ἡ 手
- λόγος, ὁ 言葉
ルカによる福音書のトップ10名詞ランキング
- θεός, ὁ 神
- κύριος, ὁ 主、主人
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- ἡμέρα, ἡ 昼、昼間、時期
- υἱός, ὁ 息子
- πατήρ, ὁ 父
- βασιλεία, ἡ 国、王国
- γυνή, ἡ 女の人、妻
- ὄχλος, ὁ 群衆
ヨハネによる福音書のトップ10名詞ランキング
- Ἰησοῦς, ὁ イエス
- πατήρ, ὁ 父
- θεός, ὁ 神
- μαθητής, ὁ 弟子
- κόσμος, ὁ 世、世界
- ἄνθρωπος, ὁ 人、男の人
- υἱός, ὁ 息子
- κύριος, ὁ 主、主人
- λόγος, ὁ 言葉
- ζωή, ἡ いのち、生命
それぞれのトップ10リストを比べてみると、ランキング順の他に、少なくても次の違いが見えてきます。
「四福音書のトップ10名詞ランキング」に載っていて、各福音書のトップ10リストにも載っている語彙は次の4つだけです。
- Ἰησοῦς
- ἄνθρωπος
- θεός
- υἱός
四福音書のうち、三つのトップ10リストに載っていて、一つだけ載っていない語彙は次のものです。
- πατήρ – マルコのトップ10リストに載っていません
- κύριος – マルコのトップ10リストに載っていません
- μαθητής – ルカのトップ10リストに載っていません
- ὄχλος – ヨハネのトップ10リストに載っていません
四福音書のうち、二つのトップ10リストに載っていて、二つに載っていない語彙は次のものです。
- ἡμέρα – マタイとヨハネのトップ10リストに載っていません
四福音書のうち、一つのトップ10リストしか載っていない語彙は次のものです。
- οὐρανός – マタイのみ
- Ἰωάννης – マルコのみ
- χείρ – マルコのみ
- γυνή – ルカのみ
- κόσμος – ヨハネのみ
- ζωή – ヨハネのみ
以上のような比較をすると、各福音書の独自テーマや強調点が見えてきそうで、なかなか面白いと思います。しかし、ここで強調したいことは、特に中級レベルの方は、原典の読み方を考慮した上で単語勉強に取り組むと良い、ということです。
新約聖書のあちらこちらの箇所を少しずつ読んでみたい方は、新約聖書全体の高頻度リストを用いたら良いでしょう。
しかし、しばらくの間は一つだけの福音書や書簡を読んでみたいと思う方は、その書だけに出てくる単語によってできた高頻度リストを用いた方が効果的で、勉強の労力に対する報いがより大きいでしょう。
さて、皆さんはどのリストからスタートしますか。